高額療養費制度とは?仕組みや自己負担額、申請方法をわかりやすく解説
公開日:2026/07/27


公的医療保険により、年齢や所得に応じて医療機関での窓口負担割合が決まっています。しかし、手術や入院などで自己負担が高額になった場合、一定の上限額を超えた分が払い戻される「高額療養費制度」という仕組みがあります。民間保険で医療費に備える際も、この制度を正しく理解しておくことで、過不足のない合理的な備えが可能になります。
高額療養費制度とは
高額療養費制度とは、1ヶ月間(月初から末日まで)に支払った医療費の自己負担額に上限を設け、その上限額を超えた分が後から払い戻される制度です。公的医療保険の対象となる診療費、薬代、入院費などが対象となります。なお、医療費の自己負担限度額は、年齢や所得状況によって異なります。
高額療養費制度の仕組み
高額療養費制度は、公的医療保険が提供する保障の一つです。健康保険や国民健康保険など の公的医療保険があるため、通常、窓口負担は概ね3割(年齢や所得に応じて2割、1割)となりますが、重い病気やケガで入院・手術が必要になった場合には、子負担額が高額になり、家計の大きな負担となる可能性があります。
そこで高額療養費制度では、毎月1日から末日までを1ヶ月として、その間に医療機関の窓口で支払った金額が「自己負担限度額」を超えた場合、申請により限度額を超えた額が払い戻されます。この限度額は所得や年齢に応じて細かく設定されており、条件によって負担を抑えられるケースがあります。
ただし、医療機関に支払った全ての費用が対象になるわけではありません。 公的医療保険の対象外となる差額ベッド代や食事代の自己負担分、先進医療の技術料などには適用されない点に注意が必要です。
高額療養費制度が役立つケース
高額療養費制度が役に立つのは、医療費の自己負担額が高額になった場合です。例えば、急な病気やケガで入院し、検査や手術が必要になると、窓口負担額が高額になることがありますが、高額療養費制度を利用することで実際の負担を抑えられます。
例えば、抗がん剤のように高額な薬剤投与が続く場合には、通院であっても自己負担が重くなるケースがあります。治療期間が長期化すれば、毎月の負担も大きくなりやすいですが、高額療養費制度では月ごとの負担に上限があるため、負担が軽減されます。
さらに、同じ公的医療保険に加入している家族の受診が同じ月に重なった場合には、自己負担額を合算できるケースがあります。これを「世帯合算」といいます。夫婦や親子で通院が重なった場合などに備えて、を覚えておきましょう。
高額療養費制度の自己負担額
高額療養費制度の自己負担限度額は一律ではなく、「年齢」と「所得」によって複数の段階に分かれています。あらかじめ自分の上限額を知っておくことで、医療費に備えやすくなります。
自己負担限度額の決まり方
自己負担限度額の区分は、大きく「70歳未満」と「70歳以上」で分かれており、それぞれ所得区分に応じた上限額が設定されています。
例えば、70歳未満の場合、「年収約370万円〜約770万円」の区分における1ヶ月の自己負担上限額は「80,100円+(医療費-267,000円)×1%」です。
仮に、1ヶ月の総医療費が100万円で、窓口での自己負担額が30万円だった場合、上記の計算式に当てはめると自己負担限度額は87,430円です。そのため、差額の212,570円があとから払い戻されます。
適用される区分は、職場の健康保険組合や協会けんぽなどであれば「標準報酬月額」、国民健康保険であれば「前年の所得」などに基づいて決定されます。自分の上限額がどの区分に該当するかは、マイナンバーカードを使って確認する方法や加入している健康保険の窓口で確認する方法などがあります。
70歳未満の自己負担限度額計算式
区分 | 適用区分(年収・標準報酬月額等) | 負担割合 | 月単位の上限額(円) |
70歳未満 | 年収約1,160万円~ (健保:標報83万円以上) | 3割 ※1 | 252,600 + (医療費 - 842,000) × 1% <多数回該当:140,100> |
年収約770~約1,160万円 (健保:標報53万~79万円) | 167,400 + (医療費 - 558,000) × 1% <多数回該当:93,000> | ||
年収約370~約770万円 (健保:標報28万~50万円) | 80,100 + (医療費 - 267,000) × 1% <多数回該当:44,400> | ||
~年収約370万円 (健保:標報26万円以下) | 57,600 <多数回該当:44,400> | ||
住民税非課税 | 35,400 <多数回該当:24,600> |
2026年5月時点
※1:義務教育就学前の者については2割。
70歳以上の自己負担限度額
70歳以上の医療費は、毎月の1日から末日までを1ヶ月として、医療機関ごとに外来と入院に分けてかかった医療費を計算します。複数の医療機関にかかった場合、最初に個人単位の外来合計額を計算します。この段階で1ヶ月の「外来上限額」を超過すれば、超過分が払い戻されます。
続いて、世帯内の外来合計額と入院合計額を全て合算します。その合計が「世帯の限度額」を超えた場合、その差額がさらに払い戻されます。この時、70歳未満の人は自己負担が21,000円以上の自己負担額だけが世帯合算対象になりますが、70歳以上の人は金額にかかわらず全て合算できる点が異なります。
70歳以上の自己負担限度額
|
|
| 上限額(世帯ごと) | |
区分 | 適用区分(年収・所得など) | 負担割合 | 外来(個人ごと) | 世帯全体 |
70歳以上 | 年収約1,160万円~ (健保:標報83万円以上) | 3割 | 252,600 + (医療費 - 842,000) × 1% <多数回該当:140,100> | |
年収約770~約1,160万円 (健保:標報53万~79万円) | 167,400 + (医療費 - 558,000) × 1% <多数回該当:93,000> | |||
年収約370~約770万円 (健保:標報28万~50万円) | 80,100 + (医療費 - 267,000) × 1% <多数回該当:44,400> | |||
~年収約370万円 (健保:標報26万円以下) ※2 | 70-74歳 2割 75歳以上 1割 ※3 | 18,000 ※4 [ 年14.4万円 ※5] | 57,600 <多数回該当:44,400> | |
住民税非課税 | 8,000 | 24,600 | ||
住民税非課税 (所得が一定以下) | 15,000 | |||
参考:協会けんぽ 高額療養費「自己負担額は世帯で合算できます(世帯合算) 」
※2 収入の合計額が520万円未満(1人世帯の場合は383万円未満)の場合も含む。
※3 課税所得が28万円以上かつ年金収入+その他の合計所得金額が200万円以
上(複数世帯の場合は320万円以上)の者については2割。
※4 75歳以上の2割負担対象者について、施行後3年間、1月分の負担増加額は3000円以内となる。
※5 1年間のうち一般区分又は住民税非課税区分であった月の外来の自己負担額の合計額について、14.4万円の上限を設ける。
自己負担額を確認するときのポイント
自己負担限度額を確認する主な方法には、マイナンバーカードを利用する方法と、加入している健康保険の窓口で確認する方法があります。
マイナンバーカードを健康保険証として登録しており、事前に自分の区分を知りたい場合は、マイナポータルにログインしましょう。「健康保険証情報」から「限度額適用認定証などの情報」の画面に進むと、ご自身の所得区分を確認できます。
70歳未満の場合、区分は「ア・イ・ウ・エ・オ」のいずれかで表示されます。例えば「ウ」は中間の「80,100 + (医療費 - 267,000) ×1%」の区分に該当します。
また、健康保険の窓口に直接問い合わせて所得区分を確認することも可能です。近々入院や手術の予定がある方は、併せて「限度額適用認定証」の発行を依頼しておきましょう。加入している健康保険組合や共済組合(公務員など)によっては、独自の「付加給付」により、さらに自己負担が軽減される場合もあります。問い合わせの際に、付加給付の有無についても確認しておくのがおすすめです。
高額療養費制度の対象になる医療費と対象外になる費用
医療機関の窓口で支払った費用が全て高額療養費制度の対象になるわけではありません。保険診療の自己負担部分は対象になりますが、保険診療以外の治療費や、治療とは直接関係のない実費の支払いについては、対象外となることに注意が必要です。
対象になる医療費
高額療養費制度の対象になるのは、原則として公的医療保険が適用される医療費の自己負担分です。具体的には、診察・検査・処置・手術などの費用、処方された薬代、入院費用などが含まれます。あくまで保険診療であることが条件のため、美容整形やレーシックなど保険適用外の自由診療は対象になりません。
薬代に関しては、院内処方、院外処方を問わず対象になります。医療機関でもらった処方箋をもとに調剤薬局で支払った金額も合算して申請できます。
なお、本制度は暦月(毎月1日~末日まで)ごとに申請します。そのため、同じ入院期間であっても、月末から翌月にかけて月をまたいだ場合は、それぞれの月の支払いとして分けて計算されることに注意が必要です。
対象外になる費用
高額療養費制度の対象外となる費用の代表的なものには、個室や少人数部屋を希望した場合にかかる差額ベッド代、入院中の食事代の標準負担額、公的医療保険の適用対象外となる先進的な治療である先進医療の技術料などがあります。
このほかにも、入院中のパジャマやタオルなどのレンタル費用、保険会社に給付金を申請するために医療機関に依頼する診断書などの書類作成費用、インフルエンザや新型コロナウイルスなどの予防接種費用、健康診断や人間ドッグなどの検診費用、美容整形や歯科のインプラント費用などの自由診療の費用も全額自己負担となり、制度の対象外となります。
高額療養費制度の申請方法
高額療養費制度は、通常、いったん自己負担額を全額支払ってから、あとで払い戻しを受ける制度ですが、最近では、最初から窓口での支払いを自己負担限度額までに抑える方法もあります。健康保険証登録があるマイナンバーカードを使用することで、より手続きがスムーズになります。
事後に申請して払いもどしを受ける方法
窓口での支払額が限度額を超過した場合には、加入先の健康保険へ申請することで、あとから超過分の払いもどしを受けられます。会社員の窓口となるのは加入する健康保険組合や協会けんぽです。自営業者など国民健康保険に加入する人の窓口は、市区町村の国保担当窓口、公務員の人の窓口は各共済組合です。窓口に申請書を請求する際に、必要な添付書類についても確認しておきましょう。
提出方法は、申請書を窓口に持参するか郵送するのが一般的でしたが、近年ではオンライン申請も普及しています。申請から払い戻しまでには審査があり、申請内容を確認して後日の払い込みとなるため、受診した月から3~4ヶ月程度の時間がかかることもあります。早めに手続きをしておきましょう。
窓口での支払いを自己負担限度額までに抑える方法
医療費が高額になる場合、一時的であっても多額の費用を立て替えることは家計にとって大きな負担となります。あらかじめ手続きをしておけば、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えられます。
方法は大きく2つあり、一つは加入している健康保険組合や、市区町村の国民健康保険の窓口などに事前申請を行い、「限度額適用認定証」の交付を受ける方法です。 入院の予定がある場合には、事前に手続きをしておくと、立替払いによる経済的な負担を抑えられます。交付された限度額適用認定証を医療機関の窓口に提示しましょう。
もう一つは、健康保険証として利用登録したマイナンバーカードを使う方法です。 病院や薬局の受付にあるカードリーダーに、マイナンバーカードを読み込ませて本人確認を行い、画面上の「限度額情報の提供」で「同意する」を選択します。これにより、事前の書類申請なしで支払いが限度額までに抑えられます。 最も手間がかからずスムーズなため、マイナンバーカードがある人利用を検討してもよいかもしれません。
申請時に確認したい書類・準備
高額療養費の申請には「高額療養費申請書」を使います。加入する健康保険の窓口で受け取るか、ホームページからダウンロードして使用します。必要事項を記入したら、窓口に持参するか郵送で提出しましょう。
記入や提出にあたっては、記号・番号などを確認するための「健康保険証」、振込先口座が分かる「通帳・キャッシュカード」、「マイナンバーカード」もしくは通知カードと本人確認書類が必要です。
近年は、保険者側で「診療報酬明細書」を使ってかかった医療費を確認できるため、「医療費の領収証の原本」を求められないケースが増えています。ただし、診療報酬明細書の到着を待たずに早めに申請したい場合などは、領収証があるといいでしょう。
高額療養費制度を利用するときの注意点
高額療養費制度を利用する時には、いくつかの注意点があります。医療機関で高額の支払いが続いても、必ずしも全てが払い戻し額の計算の対象になるわけではありません。対象になるもの、ならないものを確認しておきましょう。
計算は1か月単位で行われる計算は1か月単位で行われる
高額療養費は暦月(1日から月末まで)を1ヶ月として扱います。月末から翌月初めのように月をまたいで入院・治療を受けた場合は、高額療養費の計算が2つの月に分かれるため、同月内で入院・治療を終えた場合に比べて払い戻し額が少なくなることがあります。
暦月の考え方は、「世帯合算」や「多数回該当」の計算にも用いられます。
世帯合算とは、同じ月に一人の医療費では限度額に達しなくても、同一世帯内の他の人の医療費や、同じ人が複数の医療機関で支払った分を合算できる仕組みをいいます。なお、70歳以上の人が負担した医療費は暦月の医療費が21,000円に満たなくても合算できますが、70歳未満の場合、1つの医療機関での支払いが21,000円以上になった月に限って合算の対象となります。
多数回該当は、直近12ヶ月間に3回以上、高額療養費の支給対象となった場合に、4回目以降の限度額がさらに引き下げられる仕組みをいいます。多数回該当は、「高額療養費が支給された月」を1回として数えるため、月をまたいで入院・治療を受けたことで自己負担額に届かなくなると、多数回該当にも届きにくくなります。
いったんは窓口で支払いが必要になることがある
事後申請をする場合には、一時的な立替払いが発生します。仮に3割負担であっても治療内容によっては高額になるケースもありますし、支払いから払い戻しまでには数ヶ月かかる場合もあるため、立替払いが家計にとって大きな負担となることがあります。
あらかじめ健康保険の窓口を通じて「限度額適用認定証」を用意して医療機関に提示するか、健康保険証の登録を済ませたマイナンバーカードを使用すると、窓口での立替払いを不要にできます。余裕をもった準備を心がけましょう。
対象外の費用は高額でもカバーされない
医療機関への支払いの中には、高額療養費制度の対象外となる費用もあります。差額ベッド代や先進医療の技術料などは高額になりやすい項目ですが、保険診療の適用範囲外となり全額自己負担となります。
このほかにも入院中の食費の標準負担額は、高額療養費の対象外になります。さらに、入院中の寝間着やタオルなどのレンタル費用、備品の購入などにも費用がかかります。医療費以外にも負担が増えやすくなるため、あらかじめ自分でも、民間の医療保険等で備えをしておきましょう。
高額療養費制度を理解して医療費負担に備えよう
高額療養費制度は、医療費の自己負担額に上限を設け、家計への負担が重くなり過ぎないようにサポートする公的制度です。
自己負担限度額は年齢や所得によって異なるため、自分が該当する所得区分をあらかじめ確認しておきましょう。ただし、差額ベッド代や先進医療の技術料などは制度の対象外となりますから、民間保険等を使って必要な備えをしておくことも重要です。
公的制度でカバーできる範囲を確認したうえで、必要に応じて保険の専門家への相談も検討してみましょう。
■記事の監修者


名前:氏家祥美(うじいえよしみ)
保有資格:AFP、2級FP技能士、キャリアコンサルタント
経歴:2005年にFP会社の立ち上げに参画、2010年よりFP事務所ハートマネーの代表に。家庭科の教科書で経済パートを執筆するほか、大学の非常勤講師、企業や自治体等でリタイアメント世代向けに講師や相談を担当。幅広い年代にむけて中立な立場で金融リテラシーを普及している。
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