「治すだけ」から「乳房再建」へ。
大きく動き始めている乳ガン治療の今。(1/3)


桜井なおみさんは、ご自身の乳ガン体験から、治療を続けながら働き続けることがいかに難しいかを実感し、同じような経験をする人々を支援する会社を立ち上げました。
そんな桜井さんに、たとえ乳ガンになっても、手術後も以前と変わらない生活を送るための解決策として、“乳房再建の今”について伺いました。

桜井なおみさん
さくらいなおみ/キャンサー・ソリューションズ(株)代表取締役社長。
一般社団法人CSRプロジェクト代表理事、NPO法人HOPEプロジェクト理事長。
社会福祉士、精神保健福祉士、技術士、産業カウンセラー。
大学で都市計画を学んだ後、設計事務所チーフデザイナーとしてキャリアを積むが、37歳の時に乳ガンが見つかり、治療のため約8ヶ月間休職。職場復帰後、治療と仕事の両立が困難となり退職。その後、自らの体験から、ガンになっても働ける社会の実現を目指して、患者雇用や職業紹介ほか、政策提言や課題解決などガン罹患をめぐる様々な課題に取り組んでいる。
乳ガンと診断された場合、温存か摘出か、まずはその術式を選ぶことになります。最近は温存ではなく、摘出と乳房再建をセットで行うケースが増えていると聞きますが、いかがですか?
時代と共に、乳ガン治療の方法や考え方は大きく変わってきました。昔はとにかく大きく広範囲を切り取って治すというのが主流だったのです。
その後、乳房を部分的に採って放射線治療を行う温存療法、さらには術前の化学療法などで腫瘍を小さくしてから取り除く方法も加わり、乳ガンの治療方法は進化をしてきました。
今は、再建を専門に考える学会(一般社団法人日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会)なども設立されたことで、人材を含め、治療の体制も整ってきました。いったん乳房を全摘出した後に、乳房を再建するという方法を選ぶ人も増えてきています。
人それぞれで価値観は違いますが、乳房に対する思いも人それぞれです。そして、乳房に対する思いは、自分だけのものではなく、ひょっとすると、パートナー、子供たち…の思いも関係するかもしれません。
乳ガンと診断されると一刻も早く悪いものを取りたい、手術をしたいと、結論を急いでしまいがちですが、家族やパートナーの気持ちを尊重することも大切です。最終的には自分で選ぶしかありませんが、術後の暮らしをイメージしたうえで、最善の手術法を決めていけたらいいですね。
乳房再建のおおきなメリットはどんな点でしょう?
乳房再建のもっとも大きなメリットは、やはり精神的な苦痛を味わわずに済むことです。
たとえば、人目を気にせず温泉やサウナに入れたり、未婚の女性であれば結婚に対して前向きになれる、自信をもって生きていけるなど、ボディイメージが変わることによる心のダメージが少ないというのは、本当に大きなことです。
また、これまで、腫瘍があることがわかっていながら、胸を失いたくないというだけの理由で手術を拒否していた人も、再建手術でふたたび胸が手に入るなら、摘出手術に踏み切ることもできるかもしれません。
もちろん乳房再建したけれど、思い描いていたとおりにできなかったという場合もあるでしょうし、合併症のリスクもゼロではありません。またエキスパンダーを注入しバストの皮膚を少しずつ伸ばすのですが、施術に伴う感染などのため途中で再建をあきらめてしまった人もいます。
しかし、乳房再建によって手術後もふたたび胸を取り戻すことで、精神的な苦痛を和らげることができるんです。

これまで主流であった温存手術についてもお聞かせください。
乳房再建に関わる健康保険の適用が限定的だったころは、少しでも胸を残したいと、温存を希望される方が多くいらっしゃいました。
“温存”という言葉のイメージから、みなさん、元の乳房と変わらない形を保てると考えがちなのですが、手術後の放射線治療の影響などにより、残念ながら、思い描いていたような胸に戻せるとは限りません。
切除する量が多い場合や小さい腫瘍が数多くあって乳房全体に飛び散っているケース、乳頭の周囲にある場合など、腫瘍の大きさや種類、できた場所によっては温存をしても整容性を確保することが難しい場合もありますから、しっかり医師と話し合いをして決めていくことが大切です。
腫瘍の場所や大きさなど、さまざまな条件によって温存可能かどうかが判断されること、また温存とはいえ胸の形が元のまま保たれるわけではないことなど、あらゆるケースが考えられるのです。

「治すだけ」から「乳房再建」へ。
大きく動き始めている乳ガン治療の今。(2/3)


2013年、インプラント(人工乳房)による乳房再建術が健康保険の適用になりました。これによってどんな変化があったのですか?
以前から、自家組織による乳房再建術は公的な保険が適用になっていましたが、お腹や背中の脂肪組織を胸に移植するため、高い技術が必要なことや、脂肪を採取した側の皮膚に傷が残るなどの理由で、実際に再建へ踏み切ることを諦めていた方もいらっしゃいました。
インプラント(人工乳房)など、人工物を入れる乳房再建は保険適用外、つまり全額自己負担だったのですが、2013年に健康保険の適用になりました。これによって、乳房再建の件数は大きく増加しました。
保険が適用されるインプラントの形は大きく分けて2種類になります。当初はお椀のようなラウンド型だけしか公的な保険は適用されていませんでしたが、2014年には日本人向きのしずく型(アナトミカル型)も登場し、大きさやボリュームも選べるようになりました。
とはいえ女性の胸の形を2パターンに当てはめるのは無理がありますね(笑)。オーダーメイドではないのでいろいろ不都合はありますが、それでもこれまでに比べれば大きく進歩したと言えるでしょう。
自家組織による乳房再建は、感触がやわらかくて自然だったり、人工物のインプラントとは違って自家組織は体温の温かさもありますから、出産を考えている方やお子さんがいる方は、子供のためにあえて自家組織を使って再建を選ぶ方もいらっしゃいます。
ただし、インプラントを用いた再建とちがって入院期間などが長くなる可能性などもありますので、これからの生活への影響、費用や入院期間や通院回数など、それぞれのメリット、デメリットを比較して、選ぶことが大切です。
また、インプラントについては、2019年に、BIA-ALCL(ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫)が発生したとの報告がありました。そのため、再建後もMRIや超音波検査などで、しっかりとフォローアップを受けていくことが大切になっています。問題のインプラント素材の使用は販売中止になり、新たな選択肢としてラウンド型のゲル充填人工乳房が保険適用されています。BIA-ALCLに関する詳しい情報は以下のホームページに掲載されていますので、これからインプラントを使った再建を考えている方は、このサイトをご覧ください。また、主治医からもしっかり説明をしてもらい、納得のいく治療を選んでください。また、保険の対象範囲などでご心配なことやご不明な点があれば保障を提供している保険会社へご相談ください
一般社団法人日本乳癌学会
一般社団法人日本乳房オンコプラスティックサージェリー学会
腫瘍を取り除くだけでなく、術後の胸の美しさや左右差などを考慮した乳ガン治療についても、前向きな動きが出ているそうですね。
ガン治療は、病気の治癒が第一です。女性にとって大切な乳房といえども、しっかり採るという考え方が主流でした。「温存すると再発リスクが高まるのではないか」と考えられていたので、胸はなくても命さえ救われればよいという方向だったのです。
ところが、全摘と温存、それぞれのグループを追跡調査して比較をしたところ、術後、投薬などのフォローアップをきちんと受ければ、その差はほとんどないことがわかってきました。残せる条件はありますが、一律で全摘出されていた時代と比べて「温存でも命には関係がない」という結果がでたことは、本当にその後の医療を変えました。
2008年に発足したのが、乳房再建学会(サイコオンコプラスティックサージュリー学会)。学会では、乳ガンの治癒と乳房の形や美しさを両立させるために外科医と形成外科医が連携して、治療のガイドラインをつくりました。
また、同時に、再建手術ができる医師や病院の認定も行ったことで、それまで口コミだけが頼りだった医師選びも、安心して選べるようになりました。術後の生活を考える上でも重要な、看護師さんの育成にも力を入れていて、術後の精神面、生活面、運動や皮膚のケアなどの体制づくりも進んでいます。
こうした体制整備ができたことで、時代は大きく動きました。

再建手術の傷は目立つのでしょうか?また手術費用の目安についても教えてください。
カップの窪みにあわせてメスを入れたり、乳輪にあわせてメスを入れるなど、個人差はありますが傷跡が目立たないように配慮して行われます。
費用については手術の方法によって大きく変わるので一概にいえないのですが、保険適用手術料金はインプラント式25万円、皮弁式49-53万円(患者は3割負担)です。また、高額医療費制度を適用することで、実質的な負担額は押さえられる可能性があります。ただし入院時に個室などの差額ベッドを選択するともっと費用はかかることになります。一人一人のニーズによって費用はことなりますので、ご確認ください。
(注:人工乳房による乳房再建はすべての治療において健康保険適用になったわけではありません。術式によって費用の内容は異なり、施設によっては自費診療として行っている場合もありますので、必ず手術前に医師に相談してください。)
服を着たときにわからなければいいのか、脱いだ時にも違和感なく過ごしたいのか、触った感触にもこだわるのか、保険の適用で全てをおさめるのかなど、ご本人のお考え次第で手術の内容も金額も変わってきます。
たとえ全摘となってもふたたび乳房を取り戻せる、保険適用や選択の幅がでてきたことで、治療へ臨む励みにもなりますね。
また医療保険の中には所定の乳房再建手術をした場合に手術給付金とは別に給付金が受け取れる民間の保険もあるので、加入前に詳しい保障内容を確認するといいでしょう。

「治すだけ」から「乳房再建」へ。
大きく動き始めている乳ガン治療の今。(3/3)


日本でも増えつつある乳房再建手術、アメリカなど海外ではすでに常識と聞きますが、いかがでしょう。
日本でも、健康保険の適用となったことで再建件数は増加しましたが、それでもアメリカにくらべればまだまだです。
私自身も30代で乳ガンに罹患し、乳房全摘出手術を受けたのですが、その後、なかなかタイミングがあわずに再建はしていません。それをアメリカで話すと、本当に驚かれちゃうんですよ。加入している保険の種類にもよるでしょうが、摘出後の再建手術は一般的になっていることが多いんです。
アメリカで出会った患者会の方などの話を聞くと、摘出と再建を同時に行う一時再建(同時再建)が多いです。二次再建となると、一度手術を受けてから、あらためて再建のために1週間ちかく休むわけですから、仕事の都合などでタイミングを逃してしまうこともあるわけです。
また、昔に温存を選んだ人が、数年後に再建をしたいと思っても、放射線治療を受けているため皮膚が硬化して難しくなる場合もあります。
アメリカ人と違って、日本人の場合、乳房切除後の皮膚に余裕があるかなど、医学的理由で二次再建になる場合もありますが、目が覚めた時には胸があるという状態を自分の意思で選べるようになったのは以前と比べて本当に大きな進歩ですね。ただし、病状や体形にもよるので、適切な医療機関を選び、しっかり主治医と相談することが大切ですね。

日本では乳ガンの罹患者、死亡者が増えています。その理由はどんなところにあると思われますか?
女性の身体が自ら出している女性ホルモンは、女性にとって重要なエネルギーです。
でもその一方で、乳ガンの発生には、女性ホルモンであるエストロゲンが大きく影響していることが分かっています。エストロゲンが分泌されている期間が長いほど、乳ガンのリスクが高まるのです。妊娠中や授乳期中は、エストロゲンの分泌が止まっているため、発ガンリスクを下げることにつながりますが、出産をしないことで必然的に女性ホルモンの影響を受ける期間が長くなり、乳ガンの罹患者数が増えている背景要因のひとつだとも言われています。
仕事との両立やキャリアプランも大切にしたいですが、やはり生物としての出産適齢期というのがあることを、あらかじめ知っておく必要がありますよね。
閉経後の方は、エストロゲン自体の分泌は無くなりますが、今度は脂肪組織の中にある別のホルモンがエストロゲンに変換されていきます。体重管理などをしっかり行い、定期的な検診を受けていくことがとても大切なのです。
日本は乳ガンの検診率が2割程度と低いそうですが、日本の社会的背景となにか関連があるのでしょうか?
日本の乳ガン検診率はなんと4割程度(厚生労働省 国民生活基礎調査2016年)。海外は7割(英国の検診率:NHC Cancer Screening Programmes 2009 Annual Report) ですから本当に低いんです。
検診を後回しにするのは、忙しい、お金がかかるなどの現実的な理由のほかに、病気を知りたくない、検査が痛いのではないか、という心理的な理由が潜んでいます。
そのなかには、「死ぬかもしれない」という当然の恐さのほかに、ガンになったら「人に迷惑をかける」「仕事を辞めさせられるかもしれない」「今の生活が変わってしまう」から知らずにいたほうが楽という、医学的なガンの恐さとは異なる理由が含まれています。
これって病気以上に社会が恐いということ。それが女性達を検診から遠ざけることに繋がっているんだと思います。
乳ガンによる患者も死亡する人も増えているにも関わらず、日本の乳ガン検診率がこんなに低いのは改善の余地があります。まずは検診の受診率をあげるなど、「できることから始める」のが大切です。乳がん検診の対象年齢になったら、まずは定期検診を受ける事が大切ですね。また、見つかった後の不安も少なくなるよう、「がんになっても安心して暮らせる社会づくり」が求められているのです。
ガンになっても安心して暮らせる社会にするために、私たちにできることはどんなことでしょうか?
アメリカでは1971年に「米国ガン法」が成立しています。日本はこれに遅れること35年、2006年に「がん対策基本法」ができています。情報や医療環境、人材育成など、医療の環境が体系的に整ってきたのがこの10年ですから、社会にまで手が回らなかったというのが正直なところでしょう。
最近では、“ガンとの共生”という言葉も聞かれるようになり、生活者としてのガン患者さんを支援する体制を整える動きもでてきました。
個人としてまずできることは、声のかけ方など、ガンになった人々との接し方を考えることがあるのかもしれません。
たとえば、「何ができるかわからないけど頼ってね」とか、「できることがあったら言ってね」、そんな言葉とともに思い切って患者さんに歩み寄ってみて。ただし「頑張ってね」は禁句です。病気は悪い事でもなんでもないんですもの。
ガンになったのは不運だけど、不幸にさせちゃいけませんよね!
2人に1人はガンにかかる現在*、いつ自分自身が当事者になるかわかりません。たとえガンになっても治療を続けながら働き続けられる、安心して暮らせる社会をつくっていきたいですね。

一生のうち「ガン」と診断されるリスク
(累積ガン罹患リスク)

女性 ~39歳 ~49歳 ~59歳 ~69歳 ~79歳 生涯
1.9% 5.5% 11.0% 18.9% 29.3% 46.2%

*公益財団法人 がん研究振興財団「がんの統計’17」年齢階級別罹患リスク(2013年罹患・死亡データに基づく)全がん

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