100歳までイノベーションを続けよう!元気に生きる秘訣を83歳の現役プログラマー、若宮正子さんに学ぶ

#インタビュー #超シニア #ライフスタイル #人生100年 #老後

60歳を目前にパソコンを購入し、80歳を過ぎてからプログラミングを学んだ若宮正子さんは、人生100年時代における素晴らしいお手本です。前編後編の2部にわたってお届けしますが、まず前編となる今回は、若宮さんのイノベーションやセルフラーニングについてのお考えをうかがい、後編では人生観や理想の生き方に迫ります。

初めて作ったアプリで世界を驚かせた

2017年、82歳の時にiPhoneアプリ「hinadan(ひな壇)」を開発した若宮正子さんは、「82歳のプログラマー」として一躍有名になりました。対面したアップル社のティム・クックCEOに「私たちは勇気づけられました」と絶賛されたほか、国連で演説を行なったり、世界最先端のクリエイターが集うTEDxTokyoで登壇するなど、高齢化社会の希望の星と呼びたくなるほどの活躍を見せています。

本サイト『人生100年の歩き方』では、人生100年時代を生きるにあたってのヒントを共有していきます。前編では、「イノベーション」をテーマにしたトークセッションから、若宮さんが新しいアイデアを生み出し続ける背景に迫ります。さらに、若宮さんのExcelアートへの取り組みを通じて、「セルフラーニング」について考えてみました。

では、まずはトークセッションの模様からお伝えしましょう。お相手をするのは、アクサ生命保険株式会社で執行役員 ITデリバリー本部本部長を務める玉置肇です。

機械やパソコンの発達によって、人生が大きく変わった

玉置:若宮さんの経歴を紹介すると、まず高校卒業後に三菱銀行にお入りになりました。銀行に入られたのはいいけれど、お札の勘定がとにかく苦手だったとか。

若宮さん:そうなんです。コンピュータはおろかお札を勘定する機械もなかったもので、不器用だった私は苦労しました。当時は、単純作業を正確に速くこなせる人、飽きずに続けられる人、いつも仕事に波がない人が評価されていたんですね。ロボットに近い人が優秀だとされた時代です。

玉置:ところが30歳代で転機が訪れます。業務改善の提案を本部に送ったことをきっかけに、企画開発部門に異動になり、管理職に就かれた。女性管理職が少なかった時代にご苦労もあったと思いますが、何がモチベーションとなったのでしょう?

若宮さん:企画開発のセクションというのは、自分で考えたことを取り上げていただく部署なので、つまり私が言い出しっぺなんですね。ロボットと同じ仕事をすることから解放されたという喜びもあって、モチベーションは自然と湧いてきました。ただ、女性管理職は珍しかったらしく、取引先に行くと見学に来る人がいらっしゃいました(笑)。

玉置:珍しい存在であることを、ご自身で楽しんでいた部分もありますか?

若宮さん:それはあったかもしれません。

玉置:お札の勘定では遅れをとったけれど、面倒なことを機械に任せる時代になると、アイデアを出す能力では負けなかったんですね。そして定年を間近に控えて、パソコン一式を購入されました。

若宮さん:25年ほど前になりますか、当時はまだインターネットが普及していなくて、電話回線にモデムをつないでパソコン通信を始めたんです。

玉置:その時、どんな感じがしましたか?

若宮さん:人生が変わりましたね。私はひとつの企業に長く勤めたので、会社の常識が世界の常識だと思っていました。でも、お料理とか海外旅行などさまざまなフォーラムに入ると、あの時代にパソコン通信をやっていた方々は個性的な人が多かったこともあり、世界が広がりました。それが1997年に立ち上げたメロウ倶楽部(註:シニア世代の生きがいづくりに取り組むインターネット上の集まり。若宮さんが副会長を務める)に引き継がれていくわけです。

玉置:メロウというのは円熟という意味ですが、もっと若々しいネーミングでもよかったのではないでしょうか(笑)。

若宮さん:大丈夫なんですよ。だれも円熟なんかしていなくて、とっちゃんジジイと、かあちゃんババアみたいな人たちの集まりなので(笑)。

玉置:そうですよね、世間は、年齢を重ねると丸くていい人になると思いたがるけれど、やんちゃな人は90歳になってもやんちゃなんですよね。

若宮さん:そうなんです。ほかにも、インターネットを通じて見ず知らずのアルメニアの方との交流が始まったりして、背中に翼が生えたようでした。

玉置:そうして、ご自身でプログラミングを学ばれて、82歳で「hinadan(ひな壇)」というアプリを開発なさった。

若宮さん:はい、シニアが楽しめるアプリがないから作ってくださいとお願いしたら、まーちゃん(註:若宮さんの愛称)が作ればいいと言われて。私のプログラミングの先生は宮城県にいらっしゃるんですが、私が暮らす神奈川とは距離があって、そこでFacebookのメッセンジャーやSkypeを活用して教えていただきました。ファイルを共有して、それを開いて先生からアドバイスを受けたり、なかなか便利だったし楽しくできました。

玉置:演説のために国連に呼ばれた時には、ニューヨークでUberもご利用になったとか。

若宮さん:サポートしてくれた方が、せっかくだからニューヨークらしさを味わったほうがいいというので、Airbnbで宿を借りて、私のiPhoneのアプリからUberを呼びました。いずれもとても良い経験でした。

玉置:年齢を重ねたことを言い訳にしないで、常に新しいモノやサービスに興味をお持ちになるのが、若宮さんのイノベーションの源だと感じました。最後になりますが、あるインタビューで若宮さんは、「最近は、みんながガラスの網をかぶっているように見える」という主旨の発言をなさっていました。母親はこうあるべきだという網、銀行員はこうあるべきだという網。この見えない網を破ることを提案なさっていて、それが私の心に響きました。

若宮さん:これからいろいろな技術革新が続くでしょうが、みんなが網をかぶっていると、会社が網を破ろうとしても破れないと思うんです。

玉置:網を破ると社会から逸脱してアウトサイダーになってしまう気がして怖いんですが、でも銀行員をひとくくりにしても、65歳女性をひとくくりにしても、ひとりひとりがみんな違うと思うんです。だから、ガラスの網を脱ぎ去って、自分自身、自分らしさをもっと出していけという若宮さんのメッセージには心を打たれました。

若宮さん:網の中にとどまると、うちの会社だけがよければいい、日本だけがよければいい、という考え方に陥りがちですが、それは長続きしないとも思うんです。網を破って、もっと広く考えられるようになるといいなと感じています。

学ぶことで、新しい自分に出会える ―若宮さん流『セルフラーニング』

トークセッションに続いて、表計算ソフトExcelを用いて図柄をデザインする、Excelアートの講習会を開きました。Excelにはセルを強調するために色を付けることができますが、これと罫線を組み合わせて自由にデザインをすることができるのです。

「今日は軽い頭の体操をしていただくために、Excelアートを楽しみたいと思います」

若宮さんのアドバイスで、参加者は各自のパソコンでデザインを開始。参加者の画面をのぞきながら若宮さんは、「おお、すごい!」「さすが、このアイデアはなかなか思い付かないですよ」などという感想を伝えます。
完成した参加者のExcelアートは、その場でスタッフにメールで送られ、プリントアウト。
プリントアウトを待つ間に、アクサ生命保険の人事部門タレントCOEマネージャーを務める牛島展子が、「セルフラーニング」についての若宮さんのお考えをうかがいました。人生100年時代の学び方について、若宮さんは以下のようなお話をされました。

1. まずやってみる
「躊躇しないで、始めましょう。うまくいってもいかなくても、だれも死なないし破産もしません。」

2. いろいろなことに興味を持ち、楽しく学ぶ
「私も電子工作を勉強中ですが、好奇心の赴くままにチャレンジすることで、いくつも新しい出会いがありました。」

3. 試行錯誤、間違い、失敗を大切にする
「失敗経験は貴重な資産です。たとえばオランダ旅行の際に兄がパスポートを失くしましたが、そこから海外旅行には住民票をカバンに入れることを学びました。」

4. カッコをつけるな
「英会話でもカラオケでも、恥ずかしいからひとりで練習してある程度できるようになってから教室に行こう、という人がいます。でもそれで上達した人はいません。」

5. 多様な手段を使って学ぼう
「私がプログラミングを学んだ時には、塩釜在住の方とSkypeやFacebookのメッセンジャーを使ってやりとりをしました。無料なのがありがたかったです。現在はビデオチャットなどさまざまな方法があるので、これを活用しない手はありません。」

6. 子どもからでも、孫からでも、教えてもらおう
「知り合いのお母さんが、7歳の息子さんから教わる時に『よろしくお願いします』と声をかけていました。私はその姿勢にとても共感します。」

7. 考えることは、学ぶこと。できるようになったら、ひとに教えよう
「ハンガリーでは、『5ウィーク先生』という考え方があったそうです。ロシア語を学ぶ時に、5週間学習をしたら習ったことをすぐに生徒に教える。これがすごく効果的だったということです。」

そして最後に、若宮さんは「100歳まで、学ぼう、学び続けよう」というメッセージを残されました。「学ぶことで、新しい自分に出会える」という若宮さんの言葉は、出席者の胸に深く刻まれたようです。

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83歳のプログラマー 若宮正子さんに聞いた人生100年時代の歩き方

若宮正子
1935年東京都杉並区生まれ。東京教育大学附属高等学校(現・筑波大学附属高等学校)卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入社。2016年からiPhoneアプリの開発を始め、17年6月には米国Appleによる世界開発者会議『WWDC 2017』に特別招待される。最年長有識者メンバーとして「人生100年時代構想会議」にも参画している。

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