5分で分かる!「2019年版 中小企業白書」の読みどころ 〜前編-経営者の交代・事業承継を成功に導くために〜

#会社経営 #今できること #事業承継

高齢化と少子化によって変容する国内市場、米中関係の悪化をきっかけに激変する世界情勢など、ビジネスを取り巻く環境は必ずしも順風満帆とは言い難い状況です。これは、どのような規模の会社にとっても同じこと。それどころか、日本の9割以上を占める中小・小規模事業者*にとっては、死活問題とも言える“波”になっているとの声もあります。
*出典:中小企業庁「2016年(企業全体に占める割合)」

経営者のみなさんにとって、「同業他社はどんな状況なのか?」や「うちのビジネスと密接なつながりがあるあの業界はいまどんな課題を抱えているのだろうか?」といった疑問は尽きないことでしょう。それを解決する糸口を示してくれるもののひとつが、中小企業庁が毎年公表している「中小企業白書」です。歴史ある公的刊行物として今回で56号を数え、今年は令和初の発刊となります。 

  今年の「中小企業白書」の見どころは?

 毎年、その時々に合わせたテーマやトピックが取り上げられる「中小企業白書」。これを読み進めると、日本の企業の現状や経済の有り様が生き生きと伝わってきます。なかでも今回は、「経営者の円滑な世代交代や、経済・社会構造の変化に合わせた自己変革の取組」について、113の事例を元に考察がなされています。

経営者の高齢化に端を発する「大事業承継時代」を迎えた今日、前述のテーマは多くのひとが高い関心を寄せるものだと言えるでしょう。気になる部分だけ拾い読みしたり、概要版でまずはポイントだけ掴んでみたりするだけでも、いま直面している課題を解決したり、経営を改善するヒントが見つかるはずです。

「2019年版 中小企業白書」は、第1部「平成30年度(2018年度)の中小企業の動向」、第2部「経営者の世代交代」、 第3部「中小企業・小規模企業経営者に期待される自己変革」で構成されていますが、ここでは、第2部と第3部を今日の会社経営の新たな課題と捉え、焦点を合わせたいと思います。

第2部「経営者の世代交代」の読むべきポイントは?

第2部「経営者の世代交代」では、事業承継や廃業に伴う経営資源の引継ぎについて取り上げられています。経営者の高齢化に伴い「引退する経営者」は数年で増加傾向になると予想されており、それに合わせて「新しく経営者になる者」も増えると見積もられています。同時に、近年増えている新規の起業(スタートアップ)でそのような責任ある立場になるひとも増えると想像できます。そうした意味で、第2部は、いま経営者として重責を担うひとはもちろん、将来的にそうなる可能性が高いというひとも必読だと言えるでしょう。


ここに注目! 経営資源の引継ぎ

これまで活躍してきた経営者が勇退するにあたり、取り得る選択肢には、「事業承継」と「廃業」の大きく2パターンが挙げられます。また、多くの場合、最終的に「経営資源の引き継ぎ」が行なわれることになります。その一連の流れをフローチャートで分かりやすく示したのが、以下の図です。

(出典:「2019年版 中小企業白書」第2-1-4図経営者引退に伴う経営資源引き継ぎの概念図)

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「ここまで育てた我社をぜひ事業承継して次世代につなげたい」と願ったなら、このフローチャートを元に、「どのように・だれに」を決めて、やるべきことを整理していくとスムーズに進みそうですね。


全部承継~親族承継では税制優遇も

勇退しても事業を継続する場合、一般的には、これまで行なってきた事業をすべて次の世代の経営者に引き継ぐ「全部承継」を進めていくことになるでしょう。多くは親族への承継を思い浮かべるかと思いますが、この場合、これまでは「贈与税の負担が大きい」と、二の足を踏む向きもありました。

資料:みずほ情報総研(株)「中小企業・小規模事業者の次世代への承継及び経営者の引退に関する調査」(2018年12月)
(注)1.引退後の事業継続について「事業の全部が継続している」、「事業の一部が継続している」と回答し、かつ、現在までに後継者に引き継いだ事業用資産について「事業用資産(設備、不動産、株式等)の一部を引き継いだ」、「事業用資産(設備、不動産、株式等)は引き継いでいない」と回答した者について集計している。
2.「全体」には、後継者との関係について「その他」と回答した者も含まれる。
3.複数回答のため、合計は必ずしも100%にはならない。
(出典:「2019年版 中小企業白書」第2-1-10図 事業承継の形態別、後継者に全部の事業用資産を引き継いでいない理由)

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この問題に対して、2018年度に法人版の事業承継税制の特例措置が創設され、2019年度からは個人版の事業承継税制の特例措置が創設されています。これによって、これまで負担が大きいとされてきた贈与税や相続税が大幅に軽減され、親族内承継が促されると期待されています。

このような事業承継の後押しになる施策は、ほかにもいくつかあるとのこと。「2019年版 中小企業白書」では、関連する施策がまとめられたコラムもあるので、ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか?(参考:「2019年版 中小企業白書」コラム2-1-1「事業承継関連施策」)


全部承継~第三者承継は創業者の負担軽減が見込める場合が

「2019年版 中小企業白書」にもある通り、「親族への承継(55.4%)」は比率としては多いわけですが、優れた技術やノウハウを持つ企業を次世代に引き継ぐ方法はほかにもあります。たとえば、社内の有望な幹部や外部の人材など、いわゆる第三者承継についても、経営者は視野に入れておく必要がありそうです。

資料:みずほ情報総研(株)「中小企業・小規模事業者の次世代への承継及び経営者の引退に関する調査」(2018年12月)
(注)引退後の事業継続について「事業の全部が継続している」、「事業の一部が継続している」と回答した者について集計している。
(出典:「2019年版 中小企業白書」第2-1-5図 事業承継した経営者と後継者との関係性)

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この場合、創業者でもある経営者なら特に「自分の会社が他人の手に渡る」というふうに考えるかもしれません。その反面、承継によって得られたお金でこれまでの負債等の返済に充当できるなど、負担軽減のメリットも考えられます。また、新経営者による新たな視点が、これまでになかった事業展開につながる可能性もあり得るでしょう。


一部承継~新旧経営者にメリットも。ただし、充分な計画は必須

全事業のうち成長が見込める一部の事業などを部分的に承継する「一部承継」も、事業承継のひとつの方法です。そのほかの事業をやむを得ず廃業とするとしても、事業の一部譲渡を有償で行なえるなら、経営者にとって廃業費用の一部を賄えるなどメリットは大きいはず。

承継する側も「ゼロから起業するより、販路や設備、技術などの経営資源を引き継ぐ形で始められた方が事業を素早く始めて軌道に乗せられる」というわけで、まさに、Win-Winの関係が成立し得ます。

ただ、実際にこの方法で引き継げたケースはまだ限定的とのこと。やはり、たとえ一部だったとしても、充分な計画が必要と言えそうです。


事業承継の勘所について先行事例やコメントが

では、実際に事業承継を行なうにあたって、どのような配慮が必要なのでしょうか? 「2019年版 中小企業白書」のP112には、後継者教育を行なううえでの注意点や事業承継が企業の強みを伸ばすことにつながる可能性のほか、事業承継を見据えた経営改革または廃業の準備をするタイミングへのアドバイスがまとめられています。

特に、すでに勇退した経営者からのメッセージで構成されている「事業承継や廃業にあたっての意見(生声集)」は、体験者ならではの視点が盛り込まれており、いま事業承継で悩んでいる経営者にとって大いに役立つ、必読の内容ばかりです。


「当初は60才で代表を退く予定であったが、後継者の引継ぎへの覚悟を待つ時間として5年を要した。早めに準備し、後継者本人にその気になってもらうことが大切」

「M&Aであれ親族間譲渡であれ、会社を他に譲るに当たっては、事前の「整理整頓」が大変重要。Happy Retirementとするため、これから会社の代表者になる人に是非認識して欲しい」

「引退した経営者の経営ノウハウなど、活用できるものが多くあると思うが、それらが消滅してしまうのが勿体ない。後進に伝えたいものがあるので、それを行う場があればよい」

(いずれも「2019年版 中小企業白書」コラム2-1-7より抜粋)



自社と重なる状況の事例を探そう

企業はひとと同じように個性・性格が異なるものですが、一方で状況等が似通っている場合もあります。事業承継の進め方に悩む経営者はぜひ事例のなかから「自社に近い課題を抱えていた企業」を探してみてはいかがでしょうか?

たとえば、「段階的に仕事を任せることで後継者の成長を促し、事業承継を円滑に行った企業」の事例は、新社長に就任した時点で、経営に関わる業務のほとんどを経験しており、また経営を好転させた実績などから従業員からの信用も厚く、円滑な事業承継を実行できたというエピソードです。この事例は、新しい経営者が社員たちに受け入れられるようお膳立てするにはどうすればいいか、などを考える際に参考になりそうです。
(出典:「2019年版 中小企業白書 事例 2-1-1 株式会社クシムラ組」を加工して掲載)

一方、「早めに従業員へ引継ぐ方針を決め、時間をかけて従業員に事業承継を行った企業」の事例は、前社長が企業文化を十分に理解している従業員への事業承継が最適と考え、指導力に長けている従業員を後継者として打診した、とあります。しかし、記事によると、承継の途中で「一度、辞退された」のだとか。そこから社長を継ぐ決断に至った過程は、事業承継に取り組もうとする経営者だけでなく、すでに取り組みを始めている経営者にとっても得られる部分が多そうです。
(出典:「2019年版 中小企業白書 事例 2-1-2 ツジ電子株式会社」を加工して掲載)

経営資源を譲って創業を後押しする方法も

もし事業承継を考えたけれど最適な選択肢がなかった場合、経営資源を譲る(売却する)、という方法も選択肢に挙がります。この場合、経営者が築いてきた有形・無形資産で次世代を支えることにもなり得ます。「2019年版 中小企業白書」のP201以降はこのことについての考察がなされています。


経営資源の譲受けについて

起業準備者にしても起業家にしても、事業のノウハウやブランド(店名・商品名等)、顧客・販売先だけでなく、役員・従業員といったソフト面の経営資産や、設備(居抜きを含む)や不動産といったハードの経営資源を引き継ぎたいとの意向が少なくないようです。

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「中小企業・小規模事業者における経営者の参入に関する調査」(2018年12月)
(注)1.ここでいう「起業家」とは、本業で起業(フリーランスでの起業を除く)したことがあり、その事業を10年以内継続していると回答した者をいう。
2.「株式」の項目は表示していない。
3.起業準備者のうち、各経営資源について引継ぎを「具体的に検討している」、「検討したい」と回答した者を集計している。
4.起業準備者の「特にない」とは、全ての経営資源について引継ぎを「検討したがやめた」、「検討したことがない」と回答した者を集計している。
5.起業家のうち、各経営資源について引き継いだと回答した者を集計している。
6.起業家の「特にない」とは、引き継いだ経営資源について「特にない」と回答した者を集計している。
7.複数回答のため、合計は必ずしも100%にはならない。
(出典:「2019年版 中小企業白書」第 2-2-40 図 引き継いだ経営資源・引き継ぎたい経営資源)

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初期費用の低い創業が可能になれば、起業するひとは今以上に増えると期待できるでしょう。ただ、それが売上向上や雇用の拡大につながるかどうかは事業内容や経営者の力量しだいでもあります。

では、どのような企業なら前述のように望ましい経営ができるのでしょうか? この点については少しユニークなデータがあります。それは、地域への愛着や地域内での人脈が売上の成長や雇用の拡大に影響している可能性がある、ということです。

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「中小企業・小規模事業者における経営者の参入に関する調査」(2018年12月)
(注)複数回答のため、合計は必ずしも100%にはならない。
(出典:「2019年版 中小企業白書」第2-2-29図 起業準備者・起業希望者が企業を検討している業種)

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起業を検討している業種はいわゆるサービス業に多く、こうした業は地域やエリアとの関わりが欠かせないものです。そのため、地域への愛着や地域内での人脈が成長の下支えになる、ということなのかもしれません。

 
起業して、地域で成長した事例

では、地域とのつながりによって企業を成長させるにはどのような進め方が求められるのでしょうか? 特に、それまで地域になかった新たな産業を根付かせるにはどうすればいいのか、疑問がわいてきます。これに応えてくれるのが、次の事例です。

地域の起業支援拠点をいかし、新たな挑戦をする企業」は、同社社長である伊藤驍氏が、秋田工業高等専門学校で名誉教授として教鞭をとっていた実績や、「地元秋田を元気にしたい」という強い思い、そしてこれまでの無形資産が組み合わさって生まれた企業です。秋田県で廃校となった小学校を活用した町営の起業家支援施設に入居し、これから需要が見込まれるドロー ンの操縦士や安全運航管理者を養成するビジネスが成立するまでの過程は、読んでいてこちらも意欲をかき立てられます。
(出典:「2019年版 中小企業白書 事例 2-2-11 株式会社スリーアイバード」を加工して掲載)

地域の高度人材を有効活用し、成長を図る企業」もドラマチックな成長ストーリーです。大手製薬会社で研究開発に従事した社長が、リーマン・ショックを乗り越え、自社の強みを再確認しながら地元である北海道に戻り、新薬の研究開発に特化した創薬ベンチャー企業として道内の高度理系人材を採用して成長拡大を図っていく過程がコンパクトにまとめられており、特に一度目のリタイアを経験し、経験や実績を下敷きに起業しようと考える世代には参考になる事例です。
(出典:「2019年版 中小企業白書 事例 2-2-12 株式会社エヌビィー健康研究所」を加工して掲載)


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中小企業や小規模事業所の経営者、とりわけ創業者にとって最後にして最大の難関とも言えるのが事業承継です。これまでの取り組みの集大成として、有終の美を飾れるように、綿密に計画しながら事を進めたいものですね。そんなふうに考え始めたなら、「2019年版 中小企業白書」は、最良の参考書になることでしょう。事例やコラムはそれぞれ5分もかからずに読めるので、スキマ時間を見付けて読み解いてみながら、自社に生かせそうなエッセンスを探してみませんか?

後編は、「激変するビジネス環境の中心で経営者に期待される自己改革」と題し、目下の課題である人手不足を解決した事例や構造変化への対応を行なった事例、BCP(事業継続計画)のなかでも近年注目される防災・減災に関する事例などを取り上げながら、読みどころを紹介します。どうぞご期待ください。

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社長さん白書2019から読む、中小企業生き残り戦略 ~就業不能リスクを踏まえた事業継続計画(BCP)を~


監修
アクサ生命 デジタル&カスタマーエクスペリエンス部 デジタルマーケティング課
オンライン・プレゼンス・マネージャー 保栖 文博
(中小企業診断士、AFP、2級FP技能士)


アクサ生命による『社長さん白書』は、2004年より全国の中小企業経営者の皆さまに対面で実施している意識調査で、2019年で8回を数えます。

今回は、「経営者の未来づくり」をテーマとし、「平成時代を振り返った感想」、「事業承継」、「就業不能リスク、介護・認知症の意識について」、「ご自身の未来づくり」、「健康経営の取り組み」(※)について質問しました。調査結果からは、「平成」における最も印象に残った出来事の上位に「事業承継・後継者問題」が挙がり、事業承継の経験のある経営者のうち、40.6%が事業承継の契機が先代の死亡による「相続」や「就業不能」など予期せぬタイミングであったと分かりました。また、80%以上の経営者が「勇退」を前提に考えている一方で、49.4%の経営者は事業承継の方針や時期は「決めていない」と答えるなど、大継承時代を前に、まだ解決すべきことがあると感じさせる結果も見られました。また、今回は、経営者の配偶者を対象に、「社長の奥さま白書2019」と題したデジタルアンケートも併せて実施しました(調査期間:「社長さん白書」2019年5月~8月、「社長の奥さま白書」2019年5月~7月)。

※「健康経営」は特定非営利法人 健康経営研究会の登録商標です。

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