2018年8月29日 | 健康のこと -Health-
※写真はイメージです。
スマートフォンの利用時間の増加に伴い、「スマホ老眼」が急増中です。スマホやタブレットなどの画像機器の使い過ぎによって、通常は40代以降にあらわれる“ピントが合わない”といった老眼の症状が20代30代に見られるものです。他にも、涙が極端に減少するドライアイ、休めても疲れがとれない眼精疲労など、まるで眼の老化が速まったかのような症状に悩む人が増えています。
大切な眼を長持ちさせ、「人生100年時代」を快適に乗り切るためには、どのような生活術を身につければよいでしょうか。
製造メーカーが製品の長寿命化を考えた時、劣化しにくい材料を選び、部品の構造的な負荷が小さくなるよう設計をしたり、定期的に部品交換を行うなどの工夫をします。それによって製品の寿命が何%か伸び、より高い品質の製品を販売することができます。では、人間の寿命が約10%、つまり10年近く伸びた場合、修理や交換なしで、それぞれのからだの機能は間違いなく働き続けるでしょうか。
私たちの眼は繊細な素材の部品が組み合わさってできたセンシングモジュール※です。カメラと同じような構造をもち、レンズ、絞り、フィルムなどが相互に機能して映像を捉えます。いずれかの部品に障害が生じると視力や視野に影響が生じます。たとえば、とても重要な部品であるレンズが濁ってしまうと視界が曇り、光が眩しくて見えづらくなります。これがいわゆる白内障です。人の眼の水晶体の混濁は40代から始まり、50代で約45%。加齢とともに混濁が見られる人は増え、80代では100%に到達します。つまり、水晶体は40~50年で劣化があらわれる部品といえるでしょう。
※センシングモジュール=人や物、物理現象などの状態や動きを感知し、信号やデータとして出力するひとまとまりの機能をもった部品群
出展:Minds 白内障診療ガイドラインの策定に関する研究(H13-21EBM-012)
実は、白内障だけでなく、緑内障、加齢黄斑変性などの疾患、そして、老眼も、40代以降に症状があらわれやすいという共通点があります。
現代人は、スマホやタブレットなどの画像機器を日常的に使い、眼を酷使しがちです。しかも、地球の気候変動などの影響で、降り注ぐ紫外線は年々増加しており、眼へのダメージ増は避けられません。眼の寿命に意識を払わなければ、人生100年時代を軽やかに歩むことは難しそうです。今すぐにでも、眼のいたわり方について知っておきたいものです。
身近に存在する眼病のリスクをひとつずつ見ていきましょう。
●スマホ老眼
「スマホ老眼」は、近くを見る時に水晶体レンズを厚くしてピントを調節している毛様体筋が疲れ果て、うまく働かなくなってしまった状態です。これは老眼と同様の症状で、長時間、近くばかり見ていると起こりやすくなります。
●ドライアイ
ドライアイは、つねに眼を覆っているはずの涙の膜が涙液不足などで乾いてしまう状態で、長時間のスマホやPC作業、コンタクトレンズの使用、加齢などさまざまな原因で発生します。“眼の不快感”、“物が見えにくい”、“まばたきが増える”などの症状を感じた時に眼科を受診すれば、比較的容易に治療ができますが、放っておくと肩こりや頭痛、腰痛などの体の症状にまで及びます。
●白内障
中高年になるとかなりの割合で症状が出てくる白内障は、日光、とくに紫外線を多く浴びることで、発症が早まることがわかっています。日照時間が長い地域の人や、屋外で長時間スポーツや労働をする人はサングラス、紫外線カット機能付きのコンタクトレンズ、つばの大きな帽子などで、十分な紫外線対策が必要です。
近年では白内障の手術は飛躍的に進歩しており、ほとんどの人が快適な視界を取り戻すことができますが、白内障以外の疾患で早めの治療が必要な場合もあり、注意が必要です。 “眼が疲れる”、“視界がぼやける”、“眩しい”などの症状を放っておくと、運転中やスポーツ中の事故にもつながりますから、やはり早めの受診をおすすめします。
●加齢黄班変性
加齢黄斑変性は、目をカメラにたとえるとフィルムにあたる網膜の中心部の黄斑に異常をきたす病気で、視野の中心部がゆがんだり、暗くなるので、“人の顔が見えない”“読み書きができない”といった症状が出ます。50歳以上に多く、進行が早い場合は1~2年で仕事や家事ができないレベルに達するので注意が必要です。喫煙や太陽光による酸化ストレス、食事の偏りが発症を早めるといわれます。
●緑内障
日本での失明原因の第一位である緑内障は、最近になって、疾患の概念が変わってきたものの一つです。以前は、房水で満たされた眼球の圧、つまり眼圧が高まり過ぎて視神経を傷つけるとされていましたが、現在では、眼圧に限らず、加齢による視神経へのダメージが何らかの理由で通常より加速したものと捉えられています。視神経とは120万本もの神経線維が集まってできており、レンズで捉えた映像を大脳に伝える役割をしています。この視神経は、眼病のない人でも年間5,000本程度失われており、70万本ほどあれば視機能に問題はありません。単純計算でも5,000×100年ですから、100歳を超えると見えづらくなってくるといったイメージでしょう。ところが、緑内障にかかると神経の減少が加速します。症状の進行はゆっくりなのでなかなか自覚できませんが、視野の一部が欠けたり、狭くなっていきます。一度、傷ついた視神経を修復するのは難しいので、視力や視界に少しでも変化を感じたら、すぐに検査をして発見することが重要です。早期に発見できれば、点眼薬や内服薬などで治療も可能です。
とくに糖尿病の人は、網膜症や緑内障、白内障など、さまざまな眼病にかかりやすくなるので、定期的に眼の検査を行うことをおすすめします。
これらの眼病の発症を防ぐために、日頃から気をつけておきたいポイントをまとめました。
1. スマートフォン、タブレット、PCの使い方
2. 目を休める、いたわる
3. 運動、睡眠、食事も大事
4. 日光、紫外線、薬に注意
5. 眼科に行く習慣を
いかがでしょうか。私たちの眼は、現代のさまざまなリスクにさらされながら、人生100年時代を生き抜かなければなりません。その一方で、世界の研修者の間では、画期的な眼科治療技術や人工視覚デバイスが次々と開発されています。日本では、加齢黄斑変性で視力を失った患者にiPS細胞で作製した網膜を移植する手術が行われ、世界初の成功事例となりました。また、眼球に埋め込んで網膜を刺激する人工視覚デバイスの開発に成功したという報告も上がっています 。さらに、グーグル社が、カメラ搭載コンタクトレンズや埋め込み型の視力矯正デバイスなどの開発を加速しているニュースも飛び込んできます。
ともすれば、これらのイノベーションによって、眼の部品交換が容易にできる時代がやって来るかもしれません。そんな未来のテクノロジーに期待をもちつつも、今できる身近な生活術を実践し、かけがえのない眼を大切にしましょう。
監修:医学博士・眼科専門医 高橋 裕昭
高橋眼科医院 (神奈川県川崎市中原区)院長東京慈恵会医科大学卒業。
国立小児病院(現:成育医療センター)、東京労災病院、東急病院(医長)、東京慈恵会医科大学講師。平成3年より開業。
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